血の季節



 暗闇と静寂が地上を支配する午前零時。
 生暖かい風を受けながら、彼女は全身の全ての感覚を総動員して“獲物”を探し求める。


     血が欲しい。新鮮な生き血が。


 その欲求は体の奥の方から無限に沸いてくる。恐らくは太古の昔から遺伝子に刻まれていた記憶…本能から来るものだという事を彼女は知っていた。種を絶やさぬ為には、とにかくこの飢えを満たす必要がある。良い悪いの問題ではない。彼女らはそうしなければ生きてはいけないのだ。


 どのくらい闇の中を彷徨っただろう。
 彼女の嗅覚は遂に“獲物”の気配を察知した。


     あそこか


 その部屋に忍び込むのはさほど難しくはなかった。部屋の窓は風を入れる為に網戸一枚の状態で開け放たれ、部屋の主である少女は安らかな寝息を立てている。余りに暑いためだろうか、手足も露なまま薄いタオルケットを一枚掛けただけの何とも無防備な姿だ。彼女はその若く滑らかな肌に牙を突き立てる感触や、皮膚の下に流れている暖かく新鮮な血の味を思い浮かべて身震いした。ああ…これで漸く飢えが満たされるのだ!


     私にはどうしても貴方の血が必要なの。悪く思わないで頂戴。


 彼女の手が少女の腕を捕らえ、唇がその柔肌に触れるかと思われたその時だった。









  パァン!!





  「召し捕ったり〜!」









 周囲は突如眩しい光に包まれた。部屋の電気が付けられたからだという事が“彼女”に理解できたかどうか。それよりも全身を打ち付けた痛みと衝撃の方が今の“彼女”にとっては問題だった。
 「うっさいな〜。なに夜中に騒いどんの?」
 「あ、お姉ちゃん見て見て!蚊の大っきいの捕まえた〜
 少女の声に目を覚ましたのか、隣の部屋から姉らしき人物が目をこすりながら入って来るが、少女は悪びれずに自分の“手柄”を見せつける。
 「蚊取りマット付けてもあんまり効かんな。やっぱ古なっとるんやろか」
 「そうやね。あ、どうせ新しいの買うんやったら、お母さんに言って液体蚊取りに変えてもらおか。それの方が効きそう」
 「うん、明日頼んでみるわ。あ、お姉ちゃん、なんかコイツまだ生きとるみたい」
 少女の手の中に閉じ込められた“彼女”は必死の思いでそこから逃れようともがいていた。少女の姉はその体をそっと指でつまむと、
 「しぶといなあ。そんなヤツはこうしたる。火あぶりの刑〜!
そう言って蚊取りマットの上に突き出した。
 “彼女”は息もできない程の灼熱の空気の中、それでも懸命にもがき、叫び声を上げた。




  『プウゥゥゥ…ゥゥゥウウ…ウウウゥ…ン…ン…』





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