リングシリーズにモノ申す
(『リング0〜バースデイ』)



 2月某日、『リング0』を観た。
 何だかんだ言いつつ、私はリングシリーズを全部観たことになる。
1作目『リング』は、映画として見るならば、確かによく出来ていた。「見ると一週間で死
ぬ呪いのビデオテープ」という題材を旨く使い、原作の大枠を守りつつも、極力簡略化された
分かりやすいシナリオと、人の心理を突いた巧みな恐怖の演出が見事に融合していた。もちろ
ん原作ファンの立場から言わせてもらえば、陰の主役、貞子が単なる化け物として扱われてい
る点や、テレビの画面から貞子が這い出てくるシーンのチープさは少々不満だったが、それでも
映画としての完成度はかなり高いと言える。
 『リング』との「デュアルムービー」という形で同時上映された『らせん』、そして後に
『死国』との2本立てで上映された『リング2』は共に続編という形をとりながら、様相はかな
り違っている。
 まず同名の原作を下敷きにした『らせん』だが、あの複雑な原作を旨く整理し、まとめては
いるものの、『リング』に比べていささか難解になってしまった感は否めない。しかしそもそ
も原作自体が映像化の難しい作品なので、それを独立した1本の映画として観られるようにま
とめ、さらに原作と細部が異なる設定の『リング』の続編としても成立させた飯田監督の力は、
もっと評価されても良いと私などは思ってしまうのである。原作を知らない観客が大半を占め
ていれば、分かりやすい『リング』に軍配が上がるのは無理からぬ事であるが。
 一方、『らせん』とはパラレルなオリジナルストーリーである『リング2』はハッキリ言っ
て駄作である。おそらく原作での3作目にあたる『ループ』がホラーというよりはむしろSF
だった為、もう少しホラーで引っ張ろうとして生まれた企画なのだろうが、実に、「やんなきゃ
よかったのに…」という内容なのである。1作目を知らない人には何のことやら分からぬ話の
進め方は、2作目の宿命だから仕方ないとしても、恐怖のポイントは定まらないし、男性キャ
ラに精彩は無いし(女性キャラは大活躍)ともあれ一番許せないのが理詰めの原作とは程遠い
トンデモな展開!…私は通常料金で観てしまったことを後悔した。
 さて、『リング0』なのである。何故『2』で「金返せ!」という心境に陥りながらも、劇
場に足を運んだかと言えば、ヒロイン貞子に仲間由紀恵、貞子に思いを寄せる遠山に田辺誠一
という、私好みのキャスティングが見えない引力となって私を引っ張ったからだ(笑)(で
も今回はしっかりレディースデイの割引料金で観たのだった)そしてその判断は有る意味間違っ
ていなかった。2人の演技は予想以上で、この作品自体もかなり面白かったのである。…とは
言え、率直な感想を言えば「もうひといきで傑作になったのに」というところか。
 短編ものの「レモンハート」を和製『キャリー』として仕上げたのは実に旨い。公開実験で
命を落とした新聞記者のフィアンセが登場し、劇団員と共に貞子を追い詰めて行く展開は映画
独自の見せ方として良く出来ていた。
 しかし、問題点がいくつかある。まず冒頭のビデオテープに関するくだりである。この話は
言わば「ビデオテープ以前」の物語であり、テープ自体はストーリーに関係ない筈だ。わざわ
ざテープの事を持ち出す必要はあるだろうか。もしどうしてもそのくだりを入れたいのなら、
話の一番最後に入れるべきだろう。また逆に、「山村志津子の公開透視実験」に関しては、もっ
と説明を入れるべきだ。前作を観ている者にとっては周知の事実だとしても、初めて観る者に
は何のことやら分からない。また、この物語の中での「全ての発端」と思えるのも公開実験な
のだから、再現映像くらいはしっかり見せねばなるまい。この二つの問題点は冒頭に実験の場
面を入れることで、容易に解決できると思うのだが。(そうすると「井戸の夢」に繋げなくな
るかもしれないが、別にこれは重要ではないような気がする。劇団員の一人が見えざる力によっ
て殺される、それだけで充分ではないか)
 貞子の「秘密」については、『2』でもそうだったが、あまり生かされていないように思う。
「貞子は二人いた」と言っても、あの説明だけではどうにも分かりにくい。いっそのこと二重
人格的なものにしてしまった方がすっきりした筈だ。そうしなかったのはおそらく同時上映の
『ISOLA 多重人格少女』とネタがかぶるのを避けた為だろう。結果としては、どうにも
あやふやで、トンデモな理屈にならざるを得なくなってしまった。
 他にも細かい見せ方などでいくつか不満はあるのだが、「にもかかわらず」それなりに楽し
めたのは、和製『キャリー』にしてしまう目のつけどころの良さと、丁寧な演出、そして何よ
りキャストの演技力のお陰だろう。仲間由紀恵の貞子は、映像化された中では一番人間らしく、
超能力者としての悲哀を実に旨く表現していた。だからこそ先に挙げた問題が解決されていれ
ば、傑作になっていただろうに、と残念に思うのである。
 …と私個人の意見というか感想はこんな具合なのだが、世間一般はどう見たかというと…興
業的にはあまり良くなかったようである。観客は映画としての完成度より、「超怖かった〜!」
で済むような単純な「ホラー」を求めていたって事か…?
 しかしこのまま「ホラー映画バブル」が続くとも思えないし、柳の下のドジョウばかり狙う
のはどうだろうか。少なくとも“ホラーじゃないと企画が通らない”状態は何とかした方がい
いぞ、映画界!

補足:『催眠』をああいう路線でやったのに、次に『ISOLA』を持ってくるなんて、角川
展開下手すぎ!



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