青山問答
(『名探偵コナン 瞳の中の暗殺者』)




 終電を気にする客と、つむじ曲がりの青山ファンの対談です。



「あなたは『名探偵コナン』が相当好きなようですが、映像におけるコナンの魅力について話
してもらえませんか」

「それにはまず、テレビアニメとして成功した要因から話そう。もともと原作コミックスは短
い章から成る、いわばショートミステリの形態を保ってきた。その形が丁度、正味25分程度の
テレビアニメの方式にぴったりだったんだね。尚且つ原作も、連載初期の頃こそ暗中模索の感は
あったものの、次第にパズルミステリとしてのクオリティが上がってきていた事により、こ
れまでになくレベルの高い“ミステリ・アニメ”の誕生となったわけさ」


「スタッフに恵まれたことも、幸運な要素の一つだと言えそうですが」

「当然それはあるだろうよ。監督からして『キャッツ・アイ』『シティーハンター』を経験し
ているこだま兼嗣だし、脚本で名を連ねているのも、実写の刑事ドラマやサスペンスものを多
く手掛けてきた人間がほとんどだ。中でもやはり古内一成に注目したいね。日本テレビ系の刑事
物といえば、それこそ『太陽にほえろ』の後期からリアルタイムに観てきた人間だが、特に
彼が脚本を担当した作品は印象に残るものが多いと感じる。多少マイナーかもしれないが、
『NEWジャングル』の「イヤな予感」や「もう一人いた」などがわたしの好きな作品だね」


「この人の特徴は、最初に張ったいろいろな伏線を、結末部分できれいに消化させるのが巧み
なところですね」


「彼のそうしたやり方が、コナンの劇場版でも生かされているんだね。劇場版はかなりの部分、
原作者である青山剛昌のアイデアによって成り立っているわけだが、それをきちんとまとまっ
た形で観られるのは脚本の力によるところが大きいだろう」


「さて、時間も押し迫って来ましたから、そろそろ劇場最新作について話してくれませんか」

「急かすね君も。う〜ん…さすがに近年の長編アニメ作品の中では、良質の方だと思うよ。が、
いかんせん1作目(『時計仕掛けの摩天楼』)の完成度があまりにも高すぎたせいか、それと
比べると、やや落ちると言わざるを得ないね。2作目の時にも感じたのだが、犯人の動機がイ
マイチ弱いのが気にかかる。一番最初の殺人はともかく、2人目以降にもう少し意義があると
よかったんだが。それでいて楽しめる作品に仕上がっているのは、テレビでは描き切れないラ
ブロマンスとアクションの要素がふんだんに盛り込まれているからだ」


「青山氏が最初に出したアイデアも、“蘭が記憶喪失になる”という、いわば事件以外のとこ
ろからだそうですね。やはりこのシリーズの根本はラブロマンスだということなんでしょうか」


「いっそ事件の方は、クライマックスの為の“理由付け”にすぎないと考えた方がいいのかも
しれないな。とは言え、事件と犯人の動機、ラブロマンスと巧く解け合っていた1作目の事
を思うとどうしても物足りない気持ちになるのは否定できない」


「しかし、今回アクションシーンはかなり充実してましたよ」

「これまでよりはるかに多い枚数のセル画を費やしていたしね。コーラの缶や噴水といった小
道具も巧く使って、蘭が記憶を取り戻す過程や、犯人との決着などなかなか痛快に演出してい
たと思う。それだけに事件の部分が心残りだが、それはまた次回作で改善されることを期待す
るとしよう。ともあれ劇場用『コナン』が、素晴らしいエンタテインメント作品であることは
確かだ。ところで君、時間はまだいいのかね?」


「おっと!終電へは駆け足ですよ。ではまた、ごきげんよう」



  ◆追記:今回は江戸川乱歩の『カー問答』風にしてみました。いかがでしょう?




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